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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

国を守るとは、国民を飢え死にさせないこと! 今こそ農業大国日本を創る

南村 忠敬南村 忠敬

2022/05/18

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イメージ/©︎panaramka・123RF

世界中がロシアとウクライナの動向を注視している。コロナ感染症の恐怖も薄れてしまうほど、その“戦い”の行方に人々は得体の知れない恐怖を感じているはずだ。

日々の出来事に徒然なるまま、思いの一端を書き綴るのが随想なのだが、もうこの話を避け続けることができなくなっている自分が居る。

人間は何故戦争をするのか……

同じ表題の書籍は数あれど、拙者は一介の不動産屋であるから、歴史上幾多繰り返されてきた戦争の原因に、土地の所有を巡る対立がかなりの割合を占めているだろうと思うところから、本編ではこのテーマで考えてみることにする。

そもそも、人類が狩猟採集生活を営んでいた原始時代。食料そのものを追い求める本能が人間を二足歩行へと進化させ、特に手という部位が飛躍的に器用さを増し、道具を生み出す知恵も備わっていった。しかし、ホモ・サピエンスの身体的な進化が長い年月を掛けて進む間も、土地を「所有」する、「占有」するといった概念は生まれなかったはずだ。

その後、移動を前提とする狩猟採集から、土地≒領土、国土という今日につながる概念の変化をもたらしたのは、定着を条件とする「農耕」の登場だ。農耕が始まると、耕作地の面的数量の確保や穀物の貯蔵に必要な“土地”に、物理的な価値が見いだされる。

また、収穫高を左右する土壌の肥沃さは、そうでない土地との格差を生み、水源が確保しやすい場所、平坦な地形、気候条件なども土地の価値を高めていく。

そして、長期的にその場所に留まるような、「定住」の概念が生まれる。それは取りも直さず、「所有」概念の起源であり、土地は重要な財となり、近世に至っては、産業の発達とともに石炭石油を始めとするさまざまな鉱物資源の包蔵地なども、極めて重要な財産と認識されるようになった。

それはすなわち、奪い奪われる対象そのものが“土地”であり領土であって、部族間の争いや国家間の侵略戦争の大きな要因となった。

 

翻って、考古学の見地から、ホモ・サピエンス(現存人類の単独種)誕生の、今から20万年ほど前以降、狩猟採集の生活様式が農耕、牧畜へと遷移する過程は必然的なのではなく、地球規模の気候変動によって変わらざるを得なかったからだと推測されている。学問的には今のところ、最も古い農耕牧畜の形跡は西アジア(コーカサス地方、シリア、ヨルダン地域)で、約1万年前の遺跡が発掘調査されている。そのほか、世界各地で発掘されている農耕跡を示す遺跡も、西アジア以前のものは発見されておらず、我々の祖先が食料の確保に農耕を採用し、一定の地域に定住した生活を始めたのは、概ね1万年前ぐらいからとされている。


イメージ/©︎varunalight・123RF

地球規模での気候変動の歴史については、歴史気候学や古気候学といった学問の分野だ。地球上の気候変動には公転周期と関連した一定のサイクルがあり(ミランコビッチサイクル:地球の公転 軌道の離心率の周期的変化、自転軸の傾きの周期的変化、自転軸の歳差運動という3つの要因により日射量が変動する周期)、これによって北極や南極の氷床の規模の変化や、氷期と間氷期がおとずれたりする年代を殆ど正確に求めることができるそうだ。

実際、過去80万年間の南極における気温の推定値から、約10万年間隔で気温の変動があり、今から2万年前の氷期の最盛期から1万年後に間氷期入り、約6000年前が温暖期のピークだったことも分かっている。巷でよく言われる、「今地球は氷期に向かっている!」というのは、この計算周期よるのだろう。

因みに、このミランコビッチサイクルで計算される10万年周期理論をもってしても、100年前から現在に続く気温変化は説明ができないらしく、約2万1000年前の最終氷期から次の間氷期に遷移する約1万年間では、地球全体の気温上昇が4~7度(℃)であったのに比べて、その10倍も気温上昇速度が速く、1951~2010年に観測された世界平均地上気温上昇(地球温暖化)の原因の半分以上は、火山噴火や太陽活動変化などの自然的要因やオゾン層の破壊などを考慮しても、温室効果ガス濃度の人為的増加に起因する可能性が非常に高いと、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5:2013-2014年公開)で結論付けられている。(参考:環境省・国立環境研究所・地球環境研究センター

話が逸れたが、人間が戦争へと向かう要因の根幹には、気候変動による生活様式の変遷が影響していたということ。そして、農耕牧畜という土地定着型の生活が、土地の所有という概念を生み、さまざまな格差によって妬み、コンプレックスは恨みへと変化し、剥奪や強奪、争奪、ついには侵略という行為にまで集団を駆り立てる。

戦争というのは、ある意味で感情のなせる業なのだ。

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【最近手掛けている仕事の話】

私事、相続人不存在の農家住宅とその周辺農地の売却処分を相続財産管理人から依頼された。これまであまり縁がなかった農地の現状を、肌身で感じることができ、複雑に絡んだ事務処理もさることながら、この小さな仕事の中で、日本の農業の大切さを考えるきっかけを与えてもらった。

その案件というのは、市街化調整区域内の農地と農家住宅。数年間放置された空き家と山積みの家財や動産類、税金滞納と車検切れの車両。地目〈田〉の農地には、倉庫やガレージ、建築現場の飯場のような未登記の建築物が残されており、既に朽廃寸前の代物。

——さて、何から手を付けようか。

所有者は、住宅ローンやら農協からの借り入れやら、かなりの債務を残していたから、先ずは金融機関との折衝から始める。売却査定金額から残債務の返済可能額を想定し、抵当権の抹消同意を得ておかなければ販売活動にも入れないからだ。

先順位抵当権者と任意売却の手続きに関する書類を交わし、後順位抵当権者には、残債務に遠く及ばない金額での抹消同意を得て、ようやく活動開始。

この案件、ややこしいのが農家住宅の敷地と建物は旧住宅金融公庫が、農地部分には農協がそれぞれ1番抵当権者として抵当権を設定しているから、公庫の側は農家住宅部分の売却だけの手続きだが、農協さんは住宅部分は後順位でも、農地部分は1番抵当権者で、農地部分の売却が進まないと債権回収もままならない。

しかし、この土地の区画が不整形で、農家住宅と農地はセットでないと売れないだろうときている。更に、調整区域内農地の売却には農地法の許可が必要で、通常なら4条申請(相続財産管理人が申請者)を行い、許可後に地目変更、売却となるが、相続財産管理人には保存行為や管理以外の権限はなく、何をするにも裁判所の許可が必要となる。従って、この案件をスムーズに処理するためには、そう、買主を先に見つけてから一連の手続きを順次行うことが求められるのだ。

【悪戦苦闘の果てに】

幸いにも早い段階で買い手が見つかった。査定を厳しく精査したことで、抵当権者との折衝は手間取ったが、案件の複雑さから、このままだと競売でも落札が難しいと予想されることから、何とか納得いただき、購入希望者には一連の事情をご理解いただいて、所有権移転まで協力いただきながら進めて行けることは、願ったり叶ったりだ。

早速、手続きに入るのだが、ここからが本番。農地ならではのハードル、農地転用が拙者の眼前に立ちはだかる。

農地法4条は、所有者自らが農地を農地以外の用途に使うため行う手続きで、同法5条では、転用を前提とした権利の移転または設定の許可を得る手続きだ。いずれの場合も近隣調整や転用後の計画書とそれに基づいた資金計画の根拠など、多くの疎明資料が必要であり、作業は煩雑だ。

また、この農地には未登記の建築物が複数棟建てられており、そもそも農地法に違反している可能性があるうえ、建築物には都市計画法上の開発許可と建築基準法上の確認申請手続きにも違反している可能性も否めず、訪ねた農業委員会事務局では、先ずそれらの調査を指導され、役所特有の“部署間のたらいまわし”にもめげずに何度も通い、時には訪問先を間違えるほど頭が混乱。

ようやく転用の目途が見えてきたとき、ダメ元承知で奥の手“非農地証明申請”を願い出てみた。

この証明は、農地なのに農地ではないことを証明してくれというものだから、農地法の趣旨に反して行う農業委員会の裁量権の範疇であり、原則は転用許可申請であって、現状が農地として利用されていないからといって、そう簡単に出していただける証明ではない。

しかしながら、拙者の願いが通じたのか、本案件の特殊性を理解いただき、当初否定的だった農業委員会事務局も、非農地証明発行手続きで進めてくれることとなったのだ。

このコラムが読者諸氏に届く頃には、晴れて農地地目が“宅地”に変わり、新しい所有者の元に引き取られ、再び活用される土地となっているかも知れないが、反面、大切な“田んぼ”がこの国から消失するということに外ならない。


イメージ/©︎norikazu・123RF

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【食料自給率向上が国防の鍵?】

世界の穀物生産量における国別ランキング(データ:農水省国際統計global note)で、日本は181カ国中37位である(2020年)。1位は中国で日本の56.35倍、2位米国、3位インドと続く。

穀物とは、コメ、小麦、大麦、トウモロコシ、蕎麦などで、勿論耕作面積によって左右される数字ではあるが、一方で同じ年の農業生産物・食料品の輸出額ランキングを見ると、世界217カ国中1位は米国だが2位にはオランダが入っている(日本は43位)。

オランダは比較的冷涼な気候であり、国土も狭く、けして農業条件が恵まれているとは言えない国で、農地面積も日本の約40%程度しかないにも係わらず、高度な生産技術を用いた大規模農業の展開を国家が支援し、第二次世界大戦後から農地の集約化(農家1戸あたりの農地面積は25ha日本は1.8ha)を進め、“スマートアグリ”と呼ばれる最新の情報通信技術や環境制御技術を導入したことにより、土地生産性は世界TOPレベルとなったのだ。

日本の農家の現状は、狭小農地しか持たない生産農家が多く、狭い土地に多くの資本・労働力を費やし、高収益を上げようとする「集約農業」が主流であったが、高コストのために農産物の単価は高く、国際競争力は弱いと言わざるを得ない。

しかるに、政府の農業保護率(農業総収入額に対する農業生産者支援補助金などの財政的支援額)は世界第5位という高水準で、専業農家は減少する一方なのに、農協組合員は増え続けるという矛盾に満ちた産業だ。

そんな状況下でも、世界中で日本食ブームが拡がり、日本の食品輸出に追い風が吹き始めている。政府は、2019年に農水産物・食品の輸出目標「1兆円」を掲げ、農業活性化にチャンスが訪れているのだ。

拙者の“小さな仕事”で紹介した農家も元は専業農家であったが、耕作面積が狭く、小作地を借りて営農していたが、技術革新の波に乗れず、先代から受け継いだご子息も、そこから抜け出すことは叶わなかったことが伺えた。結局農地は荒れ果て、生計もままならない状態で亡くなられたようで、残ったのは耕作放棄地と住宅ローンの残った農家住宅だけ。

このような事例は、実は国内各地に散見され、農家住宅の空き家問題は、農地法という諸刃の剣によって遅々として進まないのが現実だ。

今こそ日本の農業が息を吹き返す施策が必要だ。先ず農地の集約化を行い、農地というだけで一括りにせず、生産性の高い農地と農業以外の利用価値が見込まれる農地を峻別し、容易に用途変更が出来るような緩和策を講じるべきだ。

また、既に50年が過ぎた市街化区域と調整区域の線引きの見直しなども迅速に進めるべきで、国土の整備は農地の整備を最優先と位置付けなければならない。

そうすれば、近い将来、日本の農業が大規模化し、ブランド化することによって当然食料自給率も上がり、且つ輸出拡大につながれば、実質的にこの国が富むのである。

それがすなわち、持続可能な国家の礎となり、国民は飢えることなく、侵略なくして国を守る形が見えてくると思うのだが、皆さんどうだろう。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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